主人のやうに思はれて来る。だから勢ひそんな不手際な態度も出て来るのである。


     ○
   七月二日
 Oは五時頃帰つた。
 殆んど私が出懸ける間際まで階下に私と一緒にゐた。
 Oの私に対する態度には別段取立てて云ふ程のこともなかつたが、二人を見てゐて私は、Oが妻と二人だけの時はいつも賑やかに喋つてゐるのに、私がゐると無口になつてしまふのだと考へた。

 ともかく、大体の印象はよかつた。妻は大体Oに対して遠慮なく振舞つてゐた。私の目の前で妻はOの『襟』まで直してやつた。

 私は妻にわざと、お母さんが厭な顔をしても構はないからお前は一所懸命にOの世話をしてやつてくれ、と頼んだ。

 それに、変に思はれたのは、妻が母のことで不平を云ふ時Oの棚下ろしもしさうなものなのに、それはやらないことだ。まるで母だけが悪い人のやうに聞える。
 ところが本当を云ふと、母にも幾らか言分がある。

 妻は又、私が晩にOの側に坐つてゐてもお母さんは悪い顔をしません、と云つた。

 Oは私がゐると滅多に笑はないが、妻と一緒に時を過ごしてゐると二人で始終笑つてゐる。妻は云ふ、二階で私の笑ひ声がすると、お母
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