いうちに出発するといふ葉書を書いた。(それは出さずにしまつた。)
それで私はやゝ安心した。
母は今からもう喜んでゐる。
妻はそれを報告した時ちつとも感情を面に表はさなかつた。
母は晩に高木さんへ行つた。
晩になつて雨が降つた。
Oが母より早く帰つたかどうか、私は知らない。……雨が降らなかつたら、私は帰つて来たところだが……
妻は、自分が何時私のところへ来たのか思ひ出せない。昨日だつたか一昨日だつたか……妻が若し私のことを思つてゐれば、そんなことは無い筈だ。それが私にいやな思ひをさせた。
ともかくこの日妻はいかにも落著き払つてゐた。妻が内心何を感じてゐるか様子を見ただけでは誰にもわかるまい。
私はOは妻が好きだし妻はOが好きだから、二人の関係は暫くそのまゝ続くだらうと、再び確信した。
○
三日、私は終日涙を流してゐた。
四日、妻との夫婦としての交渉を絶つことを妻に申し渡した。
五日、妻は半ば告白した。
妻は日中トミを連れて来た。あなたが自分をそんなに悩ましてゐる事実を一々落著いて穿鑿して見たなら自分の間違ひに気が附くんではないかしら、と妻は云ふ。
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