何と云っても今はまだレフレクションの影響を免がれていない。十九世紀で暴威を逞くした思索の奴隷になっていたんで、それを弥々《いよいよ》脱却する機会に近づいているらしく見える。新理想とか何とか云い出すな、まだレフレクションに捉われてる証拠さ。併しさすがに以前の理想では満足出来ん所から、新理想主義になって来たんだ。文学の方で最近の傾向はシンボリズムとか、ミスチシズムとか云うのだが、イズム[#「イズム」に傍点]の中《うち》に彷徨《うろつ》いてる間《うち》や未だ駄目だね。象徴主義で云う霊肉一致も思想だけで、真実一致はして居らんじゃないか。で、私は露語の所謂ストリャッフヌスト(身震いする)と云ったような時代……つまりこびり[#「こびり」に傍点]着いて居る思想の血を払って、新たな清い生活に入ろうとする過渡の時代のように今を思う。思想じゃ人生の意義は解らんという結論までにゃ疾くに達しているくせに、まだまだ思想に未練を残して、やはり其から蝉脱することが出来ずに居るのが今の有様だ。文学が精神的の人物の活動だというが、その「精神」が何となく有り難く見えるのは、その余弊を受けて居るんで、霊肉一致どころじゃない
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