様で、好加減《いゝかげん》に聞流して置いたが、其後北京へ行つて暫らく逗留してゐると、或日|巴里《パリ》から手紙が来た、巴里に知人はないがと怪しみながら封を切つて見ると、エスペラント語で日本に於けるエスペラント流布の状況が聞きたいといふ意味の事が書いてある。署名は仏人の名だが一向知らない人だ。さてはエスペラント協会員だなと心附いたから、日本では一向まだ駄目だといふ返事を出して置いたが、戦争前帰朝すると間もなく又|墨西哥《メキシコ》の未知の人から矢張エスペラント語で絵葉書の交換を申込んで来た、成程教科書は西班牙語《スペインご》にも飜訳されてあるから墨西哥にエスペランチストのあるに不思議はないが、それでも其葉書を手にした時には、実に意外の感に打たれましたよ、といふものでエスペラントは今では思ひ掛けない処にまで弘まつてゐるから、エスペラントは確かに世界通用語になりつゝあるものと謂《い》つてよろしい。安孫子《あびこ》君の報道でみると、倫敦《ロンドン》の商業会議所ではエスペラントを書記の必須科目にしてゐるさうだ、又黒板博士の話では倫敦の或るステーションにはエスペラントのガイドが居ると云ふ、かれこれ
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