」に傍点]が浅すぎる……)
 学校を終えて天野の邸へ帰ればもう日暮れである日が多い。平一郎はほとんど天野や綾子に会うことが稀だった。朝から午後一杯は学校で、夜は自分の部屋に籠って勉強をする。用事があれば粂が取次いでくれた。二人に会えない、それは平一郎にはよかったのだ。天野に会って、天野の力を身に感じ容れることは、平一郎に冬子を思い出させ、お光を思い出させ、底恐ろしい憎しみを恩人であるはずの天野に感ぜしめて仕方がなかったし、綾子に会うときは何故か引きずり込まれるような恐ろしさを感じてならなかった。お光と冬子と和歌子とから受ける感情を一緒にしたような感情――恩人の夫人という気持は微塵もしないことが平一郎に苦しかった。しかしこの二人に会わないで一人いるときは、平一郎は使命に燃える一青年ではあったのだ。平凡で何事も起こさず、彼ははやくも七月を迎えたのである。
 七月初旬のある日、学校では高等学部全部と普通部五年生に、世界の基督教界の第一人者であるアメリカ人のA氏の講演が、高等学部の階上の学生集会所で催された。その日、第五時間目は体操の時間であった。東京の七月の暑い真紅な太陽と燃える大空と万物が
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