うと胸がむか/\して来るね。静子、待っているよ。お前の乳房の柔らかさを覚えているよ。ああ、絶望。死ぬことすら自由でないこの牢獄。死生の本質を一貫するこの永遠の「生命」という牢獄。さようなら。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ]老いぼれた青年より

 読み終った尾沢の顔は死人のように蒼黒かった。彼はごろりと横になって頭を抱いてしょうことないように身体を揺すった。平一郎には分らないことも多かったが、厳粛な暗い精神の悩みが感じられた。そして、それが彼の今の心に嬉しかった。深井は瞳を動かさず頬を火照らして深い溜息をもらした。その様子が森厳な尾沢の苦しみを了解したもののように平一郎には見えた。戸外では嵐の前の静寂が天地をこめて透徹していた。
「尾沢さん、いないの! 尾沢さん!」
「静ちゃんかい。お上り」尾沢は寝転がったままで女の声に答えた。蒸すような青春の臭気と熱気が二階へのぼって来て、無造作に髪を束ねた額のでた豊頬の肥ったあまり美しくない若い女が、部屋へはいって来た。
「お客様? 可愛いお客様――」平一郎と深井は正しくお辞儀した。
「深井さんじゃないの。もう一人の方はどなた?」

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