やの名を己は暗誦したものだ。そして獣欲を描いた小説に読み耽ったのだからたまるまい。己の年齢で真にそうしたものに興味を持ち得たということを己はどう考えどう泣いてよいのだろうか。己は今はもう何もそれらの過去のことに関してどうもこうも考えようがない。何もかも必然だったという想いがする。これより悪くあり得ても善くあり得そうもない己の生の踏み出しだ。とにかく己は二十歳頃迄をその頃の自然主義の文学に読み耽ったことをお前に告白する。もうその頃は学校も中途で止してしまって、田舎の新聞記者の名を知り顔を知ることを何よりの光栄とするようになってしまっていた。二十歳の夏東京へ逃げて出て申し訳のように私立の学校に籍を置いて、くだらない文学者と名のつく奴等を訪ね廻っていたようなわけ。静子、己の疲れた心身はこれだけ書いたことにもう疲労を覚えている。笑え、笑え、こんなへなちょこでも一度は大文豪を夢みたのだから人間はいじらしいのだ。笑え、笑え! ――静子、せめて国許の方の嘘の両親達でももう四、五年無事にいてくれれば。彼等は己を餓えさせる程の悪人でもないのだが、今度はまた何ということだろう、女の方が肺患で死んでしまった
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