い人達の中へ出たのです。静子、己の十四のときだよ。己はそのとき同じ高岡の出身でその町で乾物問屋をしている家に下宿していたが、その家は主人と三十四、五の主婦さんだけで子がないのだ。「尾沢さんが長男でなかったらほんとに家の息子さんに貰うんだに」とよく肥った四十近い主人が言うのをかなり真面目に「なりますとも」と答えていたあの頃の己に残っていた初心さは実に涙が零《こぼ》れる。ところがだ、己が十五の秋、その壮健なとても死にそうでなかった主人が死んだのだ。主婦さんは気丈な性質だから自分で乾物屋をやるといって店を閉じなかった。静子、己は白状するが、その主人が死んだことを学校から帰って来て主婦さんに聞いたその刹那ある忌わしい関係の妄想が己の全身を痺《しび》らしたのだ。ああ、己は十五の熟しきらない童貞をその主婦さんによって破ってしまったのだ。己は一年半あまりの間に申し分のないほど三十五を過ぎた主婦さんにまるで内に沸く若さを消耗しつくした若い老爺のようにされて捨てられたのだ。悪いことか善いことか知らないが、己はその頃日本にようやく伝来しかけていたあの自然主義文学を噛りはじめていたものだ、ゾラやモウパッサン
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