あ、痛い――深井の坊っちゃんが笑っていらしってよ」
「――随分待っていた。ね、深井君」深井はただうなずいた。
「そおお――わたし学校の中へはいるのを止しましてよ」
「どうして? 無論僕達のものは何も出してないのですから――」
「でも、あんまり厚かましくて大胆すぎやしなくて? それにここじゃ、何だか人に見えてよくないわ」
「見えたっていい!」
平一郎は小倉の薄汚ない、肘のところの破けて白い布のほころびた洋服の腕を二、三度振り廻した。それでも彼は理科実験室の横手の泉水の傍へ行くだけのことはした。秋の陽が緩やかに三人にそそいでいた。植物園の葉鶏頭の燃ゆるような鮮紅色が絶えず三人の目先にちらついていた。
この日の夕方、体操の教師が校舎の外囲を「巡邏《じゅんら》」したとき、彼の靴先に白いものがかかった。彼は何気なく取り上げてみた。「吉倉和歌子様」とその状袋の表紙には書かれてあった。裏を見ると「大河平一郎」
「四年の生徒の筈だが――」と彼は辛辣な感興に駆られて中の手紙を展いてみた。下手な大きな文字で彼にとっては許すべからざる文字が書かれてあった。平一郎は何も知らなかった。恐ろしい底の知れぬ運命
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