の深淵が大きな口をあけて彼の陥るのを待っていた。
日曜日の次の日の朝は学校における唯一の新しい朝である。日曜日に緩やかに寛いだ精神が、一週間の学校生活に蓄積した不快や嫌悪の垢を洗われた、悦ばしい顔色となって、この朝の教員室を生き生きさせる。月曜の朝だけは人々は互いにお互いを懐かしく想うのである。十月中旬のこの月曜日の朝、背の低い髭の長い体操の教師は威勢よく誰よりも先に登校した。火鉢に炭火を分け入れていた小使の爺《おやじ》が驚いたほどに、てか/\靴墨で黒光する長靴を短い脚に穿《は》いて、彼は廊下を足音高く歩いた。そして朝の早い校長の出仕《しゅっし》を待つのであった。校長は、二人の可愛い娘が袴をひきずりながら先に出る彼を玄関口まで送って出て、「行っていらっしゃいまし」と言った言葉の懐かしさを繰返して学校の門をくぐって玄関へ上りかけると、あまり好きでない体操の教師が、「お早うございます」とやって来た。彼は「お早う」と言った。そしてそのまま行き過ぎようとした。
「少し特別の御相談がありますが」
「あ、そうですか。それじゃわたしの部屋へどうぞ」
校長は自分の室へはいって、窓のカーテンを引き
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