たない末の従妹がこんなことを言つたりした。病人は只大きく女らしく成つて行く女達を不思議さうに眺めて居るより外に仕方がなかつた。
新聞と創作と薬とで生きて居る病人にも移り行く時勢はまざ/″\と分つた。同窓で卒業した青年文士の二人迄が中央の文壇に頭角を現した事なども、朽ちて行く若い文士には悲しかつた。
こうした悲しい時に限つて、彼は枕元の原稿を手に取つて、
『もう三百枚だ。』
心から嬉しさうにかう叫ぶのであつた。自分の死と原稿の完成と、どつちが先だらうなどと考へ込むこともあつた。
『清さん、いつか見舞に来たKさんが落陽と言ふ長篇を出して、それあ大した評判ですよ。』
と従姉妹の一人がわざ/″\新刊を持つて来たりした。
『お前そんなに無理して書かなくつたつていゝぢやないか。』
若い文士の性急な努力を知つて居る主人は静かにかう言つた。
軍人に成つて居る義従兄が見舞に来た時『清さんしつかりやりなされ、近頃赤倉清復活の声がすばらしいですよ。』
などと、細つそりした若い文士の顔を気の毒さうに見守つた。
かうして病床の三年は経つたのだつた。
三年!長い/\三年であつた。若い文士は大なる
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