枯れた木の根から新しい若芽が萌え出たのだといつて喜んだ。若い文士の従妹も若芽の成長せんことを心から願つた。主人は其夜、風邪の直らぬのも気にしないで床上げをして
『若芽が出たのぢや。若芽が出たのぢや。』
と言つて隣近所へ赤飯をくばつた。ささやかな神棚には、仄暗い御燈明がともされて、主人は其の前に座つたまゝ、神前にそなへた白い表紙の其本をじいつと、いつ迄も/\見詰めて居た――。
 若い文士は何より読書が好きであつた。或夏、新しいハンモツクを買つて来て庭の森の木の間に結はえて置いた。夏の日の午後など緑陰の下にうつとりとハンモツクの上に眠つて居る若い人の白い顔が、本を持つた手と共に目に残つてゐた。
 何うかすると、若い者同士の従姉妹等を呼び寄せて、一緒にわあわあ騒ぐこともあつた。
 時折、西洋の赤い表紙の詩集なんかを読んで居ると、主人がひよつこり現はれて来て
『どんな意味かね。』などと
 問ひかけることもあつた。すると若い文士はハンモツクから寝てゐる身体を起しにかゝると
『いゝよ。』
 といつて笑つて行き過ぎるのを常として居た。
 そうした内に清は卒業する様になつた。清が卒業証書を握つて郷里に
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