はどうかしら』
 と、一人が白んで行く空を見上げた。
 すつきりと晴れ渡つた空の下には、朝露を含んだ新緑が流れる様に美しかつた。
 白い布に包まれた寝棺!
 朝飯を終えた従姉妹達は又思ひ出した様に棺の前に集まり座つた。
『もう釘を打ちつけますよ。』
 奥の八畳から呼ぶ声がした。人々は泣き度い様な顔をして其の方へ走つた。和尚の長い読経の透ほる声と、折々鳴らす鉦《かね》の音とが女達のすゝり泣きの間を縫ふて悲しく打ち震ふて聞えた。
 やがて焼香も終つた頃、奥は部屋一杯に人立がして、夫々《それぞれ》黙つて棺側を取り捲いて、中へいろんなものを入れたり出したりしてゐた。新しい木の匂と線香の匂とが人々の鼻につきまとつてゐた。
 主人は落付かぬ目色をして、もう一遍棺の中を覗き込んだ。
 カーン、カーン、釘は一本打ちつかれた。
 主人は傍に居る、自分の妹と、娚《めおと》達を省みて最後の名残を惜しまうとした。
『兄さん、清さんにお別れを。』
 棺の蓋を持ち上げた妹は半ば泣声にこううながした。主人は白い布を取つてじいつと死人の顔を覗いた。
『清、さいならだ。』
 はら/\、はら/\、涙は止度もなく流れ出る。
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