い、憎い女ではない、憎いどころではない、おとよさんのような女でそうしてあんなに親切な人はどこにもない、一体どういうわけであのしっかりとしたおとよさんが、隣の家のようなくずぞろいの所にいるのか、聞けば全く媒妁《なこうど》の人に欺かれたのだというのに、わからねいなア、そのくせ清さんと仲がえいかというに決してそうでないようだに、おとよさんはえい人でかわいそうな人だ、どうしたらえいだろう。
 ただお互いに思い合ってるばかりで、どうもしなければさしつかえもあるまいが、それでお互いに満足ができようか、それがまたできたところでつまりはつまらない事になってしまう。いくら考えても結局を思えば、おれとおとよさんが何ほど思い合ってもどうする事もできやしない。徒《いたず》らなる感情の上にむなしき思いを通わせても罪の深いことは同じだ。世間にうわさでも立てられた日には二人がこうむる禍《わざわ》いも同じだ。ああつまらないばかばかしい。そうだおとよさんによく言い聞かして、つまらぬ考えはやめさせよう、それに限る。それでもおとよさんがおれの言うことを聞くかしら、一体おとよさんはどういう了簡かしら。何もかもわかってるおとよ
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