隣の嫁
伊藤左千夫

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)満蔵《まんぞう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)今|藪鶯《やぶうぐいす》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ]
−−

     一

「満蔵《まんぞう》満蔵、省作《しょうさく》省作、そとはまっぴかりだよ。さあさあ起きるだ起きるだ。向こうや隣でや、もう一仕事したころだわ。こん天気のえいのん朝寝していてどうするだい。省作省作、さあさあ」
 表座敷の雨戸をがらがらあけながら、例のむずかしやの姉がどなるのである。省作は眠そうな目をむしゃくしゃさせながら、ひょこと頭を上げたがまたぐたり枕へつけてしまった。目はさめていると姉に思わせるために、頭を枕につけていながらも、口のうちでぐどぐどいうている。
 下部屋《しもべや》の戸ががらり勢いよくあく音がして、まもなく庭場の雨戸ががらがら二、三枚ずつ一度に押しあける音がする。正直な満蔵は姉にどなられて、いつものように帯締めるまもなく半裸で雨戸を繰るのであろう。
「おっかさんお早うございます。思いのほかな天
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