ついたのがその親分の定公であったとさ。そのうちに親父は外へ逃げてしまった。みんなして、おっかまア静かにしろって押えられて、見ると他人だから、嬶もそれ大まごつきさ。それでも婆さん、親分と名のつくものは感心だよ。いやおっかアに無理はねい。金公が悪い。金公金公、金公どうしたっていうもんだから、金公もきまり悪く元の所《とこ》へ戻ってくると、その始末で、いやはよっぽどの見もんであったとよ」
「そりゃおかしかったなア」
 皆一斉に笑う。
「それからまだおかしい事があるさ。金公もそのままのめのめと嬶と二人で帰《けえ》られめい。金公が定親分にちょっとあやまってね、それから嬶の頭を二つくらしたら、嬶の方は何が飛んだかなというような面《つら》をしていて、かえって親分が、何だ金公、おれの前で嬶を打《ぶ》つち法はあんめいってどなられて、二人がすごすご出てきたとこが変なもんであったちよ」
「うんそうか。それでも昨日の日暮れおれが寄ったら、刈り上げで餅をついたから食っていかねいかって、二人がうんやなやでやってたよ」
「うん、あん嬶いつもそうさ。やっぱり似たもの夫婦だよ。アハハハハハ」
 それから何か次の話が出そう
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