したまえ。省作さんもおごるならまたそのように用意が入るから」
政さんに促されて満蔵は重い口を切った。
「おとよさアが省作さアに惚れてる」
「さアいよいよおもしれい。どういう証拠を見た、満蔵さん。省作さんもこうなっちゃおごんなけりゃなんねいな」
口軽な政さんはさもおもしろそうに相言《あいこと》をとる。
「満蔵何をぬかすだい」
省作はそうは言ったものの不思議と顔がほてり出した。満蔵はとんだことを言い出して困ったと思うような顔つきで、
「昨日の稲刈りでおとよさアは、ないしょで省作さアのスガイ一|把《わ》すけた。おれちゃんと見たもの。おとよさアは省作さアのわき離れねいだもの。惚れてるに違いねい」
おはまは目をぎろっとして満蔵を見た。省作はもう顔赤くして、
「うそだうそだ。そらおとよさんはおれがあんまり稲刈りが弱いから、ないしょで助《す》けてくれたには相違ないけど、そりゃおとよさんの親切だよ。何も惚れたのどうのってい事はありゃしない。ばか満《まん》め何をいうんだえ」
省作も一生懸命弁解はしたものの何となしきまりが悪い。のみならずあるいはおとよさんにそんな心があるのかとも思われるから、い
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