軒いっしょになって刈るというところに仕事以外の興味がなければならないのに、今度の稲刈りはどうもそれが欠けておった。清さんはさもつまらなそうに人について仕事をしてるばかり、満蔵もおはまも清さんのお袋もなんだかおもしろくなかった。身上《しんしょう》の事ばかり考えて、少しでもよけいに仕事をみんなにさせようとばかり腐心している兄夫婦は全く感情が別だ。みんながおもしろく仕事をしたかどうかなどと考えはしない。だからこんな事はつまらんとも思わない。ただ若いものらが多勢でやりたがるからこれに故障を言わないまでのことだ。ほかの人たちはそうでない。多勢でしたらおもしろかろうと思って二軒いっしょにお互いこの稲刈りをしたのだが、なんだかみんなの心がてんでん向き向きのようで、格別おもしろくなかった。だから今日のしまいごろには清さんも満蔵もおはまも、言い合わさないでつまらなかったとこぼした。
それはそのはずなのだ。おとよさん一人のために皆が騒がせられたようなもので、いわばみんながおとよさんにばかにされたのだ。だれとておとよさんにばかにされていたと気づきはしないけれど、事実がそれであるから興味がなかったのである。
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