りに長く長城のごとくに組み立てられた。省作もおとよさんのおかげで這い回るほど疲れもせず、負恥《まけはじ》もかかず済んだ。おはまがもしおとよさんのしぐさを知ったら大騒ぎであったろうけれど、とうとうおはまはそれを知らなかった。おはまばかりでない、だれも知らなかったらしい。
「今日ぐらい刈れば省作も一人前だなア」
これが姉のほめことばで見ても知られる。のっそり子の省作も、おとよさんの親切には動かされて真底からえい人だと思った。おとよさんが人の妻でなかったらその親切を恋の意味に受けたかもしれないけれど、生娘《きむすめ》にも恋したことのない省作は、まだおとよさんの微妙なそぶりに気づくほど経験はない。
元来はこの秋二軒が稲刈りをお互いにしたというも既におとよさんの省作いとしからわいた画策なのだ。おとよさんは年に合わして、気前のすぐれたやり手な女で、腹のこたえた人だから、自然だいそれたまねをやりかねまじき女ともいえる。
こう考えて見るとただおとよさんが目的を達したばかりで、今日の稲刈りには何の統一もなかった。稲刈りは稲さえ思うだけ刈り上げさえすればよいわけだが、仕事の興味という点からいうと、二
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