何でも買ってやるけれど、お前がおれに負けたらどうする」
「わたしも負けたら何かきっとあげるから、省さんの方からきめておいてください」
「そうさなア、おれが負けたら、皹《ひび》の膏薬をおまえにやろう」
「あらア人をばかにして、……そんならわたしが負けたら一文膏薬を省さんにあげべい。ハハハハ」
仕事着といっても若いものたちには、それぞれ見えがある。省作は無頓着《むとんちゃく》で白メレンスの兵児帯《へこおび》が少し新しいくらいだが、おはまは上着は中古《ちゅうぶる》でも半襟《はんえり》と帯とは、仕立ておろしと思うようなメレンス友禅の品《ひん》の悪くないのに卵色の襷《たすき》を掛けてる。背丈すらっとして色も白い方でちょっとした娘だ。白地の手ぬぐいをかぶった後ろ姿、一村の問題に登るだけがものはある。満蔵なんか眼中にないところなどはすこぶる頼もしい。省作にからかわれるのがどうやらうれしいようにも見えるけれど、さあ仕事となれば一生懸命に省作を負かそうとするなどははなはだ無邪気でよい。
清《せい》さんと清さんのお袋といっしょにおとよさんは少しあとになってくる。おとよさんは決して清さんといっしょになっ
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