も言わない。満蔵はお祖母《ばあ》さんが餅に賛成だという。姉はお祖母さんは稲を刈らない人だから、裁決の数にゃ入れられないという。各受け持ちの仕事は少しも手をゆるめないで働きながらの話に笑い興じて、にぎやかなうちに仕事は着々進行してゆく。省作が四挺の鎌をとぎ上げたころに籾《もみ》干しも段落がついた。おはまは御ぜんができたというてきた。
昨日はこちから三人いって隣の家の稲を刈った。今日は隣の人たちが三人来てこちの稲を刈るのである。若い人たちは多勢でにぎやかに仕事をすることを好むので、懇《ねんごろ》な間にはよく行なわれる事である。
隣から三人、家のものが五人、都合八人だが、兄は稲を揚げる方へ回るから刈り手は七人、一人で五百|把《ぱ》ずつ刈れば三千五百刈れるはずだけれど、省作とおはまはまだ一人前は刈れない。二人は四百把ずつ刈れと言い渡される。省作は六尺大の男がおはまと組むは情けないという。それじゃ五百でも六百でも刈ってくれと姉が冷笑する。おはまはまた省さんが五百刈ればわたしだって五百刈るという。おはまはなんでもかでも今日は省さんを負かして何か買ってもらうんだという。
「おれがおはまに負けたら
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