き、兄は俵あみ、省作とおはまは繩ない、姉は母を相手にぼろ繕《つくろ》いらしい。稲刈りから見れば休んでるようなものだ。向こうの政《まさ》公も藁をかついでやって来た。
「どうか一人仲間入りさしてください。おや、おはまさんも繩ない……こりゃありがたい。わたしはまたせめておはまさんの姿の見えるところで繩ないがしたくてきたのに……」
「あア政さん、ここへはいんなさい。さアはま公、おまえがよくて来たつんだから……」
「あらアいやな」
おはまはつッと立って省作の右手へうつる。政さんはにこにこしながら省作の左手へ座をとる。
「昨日の稲刈りはにぎやかでしたねい。わたしはおはまさんに惚れっちゃった。ハハハハハ」
政さんは話上手でよく場合に応じての話がすこぶるうまいもんだ。戯言《じょうだん》とまじめと工合よく取り交ぜて人を話に引き入れる。政さんはおはまの顔を時々見てはおとよさんをほめる。
「女の前でよその女をほめるのは、ちっと失敬なわけだけど、えいやねい、おはまさん、おはまさんはおとよさんびいきだからねい」
おはまはわきを見て相手にならない。政さんはだれへも渡りをつけて話をする。外は秋雨しとしとと降って、この悲しげな雨の寂しさに堪えないで歩いてる人もあろう、こもってる人もあろう。一家和楽の庭には秋のあわれなどいうことは問題にならない。兄の生《き》まじめな話が一くさり済むと、満蔵が腑抜《ふぬ》けな話をして一笑い笑わせる。話はまたおとよさんの事になる。政さんは真顔になって、
「おとよさんは本当にかわいそうだよ。一体おとよさんがあの清六の所にいるのが不思議でならないよ。あんまり悪口いうようだけど、清六はちとのろ過ぎるさ。親父だってお袋だってざま見さい。あれで清六が博打《ばくち》も打《ぶ》つからさ。おとよさんもかわいそうだ。身上もおとよさんの里から見ると半分しかないそうだし。なにおとよさんはとても隣にいやしまい」
「お前そんなことをいったって、どこがよくているのかしれるもんじゃない。あの働きもののおとよさんが、いてくれさえすれば困るような事はないから」
兄はつやけのないことを言ってる。
「もっとも家じゅう一生懸命にとりもって、おとよさんを置こうとしているらしい。それでもこの節はおとよさんのきげんがとり切れないちゅう話だ。いてもらおうと思う方がよっぽど無理だ」
おはまは喉《のど》のつまっ
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