持ってきていうのさ、兼さん何でもないよ鎌を買いに来たんだよ、日中は熱いから朝っぱらにやって来たのさ、こういうと、
「そらアよかった、まア旦那お早ようございます」と直ぐにけろりとした風で二つ三つ腰をまげた、ハハハアと笑ったかと思うと直ぐ跡から、旦那鎌なら豪せいなのが出来てます、いう内に女房が出て来て上がり鼻へ花蓙《はなむしろ》を敷いた、兼公はおれに許り其蓙へ腰をかけさせ、自分は一段低い縁に腰をかけた、兼公は職人だけれど感心に人に無作法なことはしなかった。
「旦那聞いてください、わし忌ま忌ましくなんねいことがあっですよ、あの八田の吉兵エですがね、先月中あなた、山刈と草刈と三丁|宛《ずつ》、吟味して打ってくれちもんですから、こっちゃあなた充分に骨を折って仕上げた処、旦那まア聞いて下さい其の吉兵エが一昨日来やがって、村の鍛冶に打たせりゃ、一丁二十銭ずつだに、お前の鎌二十二銭は高いとぬかすんです、それから癪《しゃく》に障っちゃったんですから、お前さんの銭ゃお前さんの財布へしまっておけ、おれの鎌はおれの戸棚へ終《しま》って措《お》くといって、いきなり鎌を戸棚へ終っちゃったんです、旦那えい処へ来て下
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