さった」そういうて兼公は六丁の鎌をおれの前へ置いた、女房は、それではよくあんめい、吉兵エさんも帰りしなには、兼さんの一酷にも困る、あとで金を持たしてよこすから、おっかアおめいが鎌を取っといてくっだいよって、腹も立たないでそういっていったんだから、今荒場の旦那へ上げて終ってはと云った、兼公はあアにお前がそういうなら、八田の分はおれが今日にも打って措くべい、旦那どうぞ持っていって下さい、外の人と違う旦那がいるってんだから、こういうから四丁と思って往ったのだが、其六丁を持ってきた、家を出る時心持よく出ると其日はきっと何かの用が都合よくいくものだ。
 思いの外に早く用が足りたし、日も昇りかけたが、蜩はまだ思い出したように鳴いてる、つくつくほうしなどがそろそろ鳴き出してくる、まだ熱くなるまでには、余程の間があると思って、急に思いついて姪子の処へ往った。
 お町が家は、松尾の東はずれでな、往来から岡の方へ余程|経《へ》上って、小高い所にあるから一寸《ちょっと》見ても涼しそうな家さ、おれがいくとお町は二つの小牛を庭の柿の木の蔭《かげ》へ繋《つな》いで、十になる惣領《そうりょう》を相手に、腰巻一つにな
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