下駄を借りたいと云ふのである。父は幼き姉を賺かして其下駄を借さした。お兒は一つ上の姉でも姉は姉らしいところがある。小さな姉妹は下駄を取替へる、奈々子は滿足の色を笑に湛はして、雪子とお兒の間に挾まりつゝ雛を見る。つぶ/\綛の單物に桃色の彦帶を後に垂れ、小さな膝を折つて其兩膝に罪のない手を乘せて蹲踞んで居る。雪子もお兒もながら、一番小さい奈々子の風が殊に親の目を引くのである。虱が湧いたとかで、頭《つむり》をくり/\とバリガンで刈つて終うた、頭つきがいたづらさうに見えて一層親の目に可愛ゆい。妻も臺所から顏を出して、
『三人が能く並んで蹲踞んでること、奈々ちやんや※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66、37−1]が面白いかい奈々ちやんや。
三兒は一樣に振返つて母と笑ひあふのである。自分は胸に動悸するまで、此光景に深く感を引いた。
此日は自分は一日家に居つた。三兒は遊びに飽きると時々自分の書見の室に襲うてくる。
三人が菓子を貰ひに來る、お兒が一番無遠慮にやつてくる。
『おんちやん、おんちやん、かちあるかいかち、奈子ちやんがかちだつて。
續いて奈々子が走り込む。
『おつちやんあつこ、おつ
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