奈々子
伊藤左千夫

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)頭《つむり》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66、35−9]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)つぶ/\綛の
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 其日の朝であった、自分は少し常より寢過して目を覺すと、子供達の寢床は皆殼になつてゐた。自分が嗽に立つて臺所へ出た時、奈々子は姉なるものゝ大人下駄を穿いて、外とへ出ようとする處であつた。凉爐の火に煙草を喫つてゐて、自分と等しく奈々子の後姿を見送つた妻は、
『奈々ちやんはねあなた、昨日から覺えてわたい、わたいつて云ひますよ。
『さうか、うむ。
 答へた自分も妻も同じやうに、愛の笑が自から顏に動いた。
 出口の腰障子につかまつて、敷居を足越《あご》さうとした奈々子も、振返りさまに兩親を見てにつこり笑つた。自分は其儘外へ出る。物置の前では十五になる梅子が、今※[#「奚+隹」、第3
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