ちやんあつこ、はんぶんはんぶん。
と云ひつゝいきなり父に取りつく [#あきはママ]奈々子が菓子ほしいといふ時に、父は必ずだつこしろ、だつこすれば菓子やるといふ爲に、菓子のほしい時彼はあつこ/\と叫んで父の膝に乘るのである。一つでは餘り大きいといふので、半分づゝだよと云ひ聞せられる爲に、自分からはんぶんはんぶんといふのである。四才のお兒はがつこといひ、三才の奈々子はあつこと云ふ。年の違ひもあれど、いくらか性質の差も判るのである。六才の雪子は二人の跡から這入つてきて、只しれ/\と笑つて居る。菓子が三人に分配されると、直ぐに去つて終ふ。風の凪いだやうに跡は靜かになる。靜かさが少しく長くなると、どうして遊んでるかなと思ふ。さう思つて庭を見ると、いつの間にか三人は庭の明地に來て居つた。くり/\頭に桃色の彦帶が一人、角子頭に卵色の兵兒帶が二人、何が面白いか笑もせず聲も立てず、何かを摘んでる樣子だ。自分は只頭りの動くのと彦帶のふら/\するのを暫く見詰めて居つた。自分も聲を挂けなかつた、三人も菓子とも思はなかつたか、やがてはた/\足音がするから顏を出して見ると、奈々子が後になつて三人が手を振つて駈ける
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