の終りであつた。多くの姉妹等は今更の如く聲を立てゝ泣く、母は顏を死兒に押當てゝ打伏して終つた。池があぶないあぶないと思つて居ながら、何といふ不注意な事をしたんだらう。自分も今更の如く我が不注意であつた事が悔いられる。醫師は其内歸つて終はれた。
 近所の人々が來てくれる、親類の者も寄つてくる。來る人毎に同じやうに顛末を問はれる。妻は人のたづねに答へないのも苦しく、答へるのは猶更苦しい。勿論問ふ人も義理で問ふのであるから、深くは問ひもせぬけれど、妻は堪らなくなつて、
『今夜わたしはあなたと二人きりで此兒の番をしたい。
と云ひだす。自分はさうもいくまいが、兎に角此所へは置けない、奧へ床を移さねばならぬと云つて、奧の床の前へ席を替さした。枕上に經机を据ゑ、線香を立てた。奈々子は死顏美しく眞に眠つてるやうである。線香を立てゝ死人扱ひをするのが可哀相でならないけれど、線香を立てないのも無情のやうに思はれて、線香は立てた。それでも燈明を上げたらといふ親戚の助言は聞かなかつた。未だ此の世の人でないとはどうしても思はれないから、燈明を上げるだけは今夜の十二時過からにしてと云つた。
 親戚の妻女誰彼も通夜
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