れない。仕方がないから、佐倉《さくら》へ降りる。
奥深い旅宿の一室を借りて三人は次ぎの発車まで休息することにした。おはまは二人の前にひれふしてひたすらに詫《わ》びる。
「わたしはこんなことをするつもりではなかったのであります、思わず識《し》らずこんな不束《ふつつか》なまねをして、まことに申しわけがありません。おとよさんどうぞ気を悪くしないでください」
というのである、おはまは十三の春から省作の家にいて、足掛け四年間のなじみ、朝夕隔てなく無邪気に暮して来たのである。おはまは及ばぬ事と思いつつも、いつとなし自分でも判《わか》らぬまに、省作を思うようになった。しかしながら自分の姉ともかしずくおとよという人のある省作に対し、決してとりとめた考えがあったわけではない。ただ急に別れるが悲しさに、われ識《し》らずこの不束を演じたのだ。
もとから気の優しい省作は、おはまの心根を察してやれば不愍で不愍で堪《たま》らない。さりとておとよにあられもない疑いをかけられるも苦しいから、
「おとよさん決して疑ってくれな、おはまには神かけて罪はないです。こんなつまらん事をしてくれたものの、なんだか私はかわいそう
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