押して、再び酒の飲み直しとなった。俄《にわ》かに家内の様子が変る、祭りと正月が一度に来たようであった。

      十三

 薊《あざみ》が一切を呑《の》み込んで話は無造作にまとまる。二人《ふたり》を結婚さしておいて、省作を東京へやってもよいが、どうせ一緒にいないのだから、清六の前も遠慮して、家を持ってから東京で祝儀《しゅうぎ》をやるがよかろうということになる。佐介《さすけ》も一夜省作の家を訪《と》うて、そのいさくさなしの気質を丸出しにして、省作の兄と二人で二升の酒を尽くし、おはまを相手に踊りまでおどった。兄は佐介の元気を愛して大いに話し口が合う。
「あなたのおとッつさんが、いくらやかましくいっても、二人を分けることはできないさ。いよいよ聞かなけりゃ、おとよさんを盗んじまうまでだ。大きな人間ばかりは騙《かた》り取っても盗み取っても罪にならないからなあ」
「や、親父《おやじ》もちょっと片意地の弦がはずれちまえばあとはやっぱりいさくさなしさ。なんでもこんごろはおかしいほどおとよと話がもてるちこったハヽヽヽヽ」
 佐介がハヽヽヽヽと笑う声は、耳の底に響くように聞える。省作は夜の十二時頃酔っ
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