。さあ土屋さん、何とかいうてください」
「いや薊さん、それほどいうなら任せよう。たしかに任せるから、親の顔に対して少し筋道を立ててもらいたい」
「困ったなあ、どんな筋道か知らねいが、真の親子の間で、そんなむずかしい事をいわないで、どうぞ土屋さん、何にもなしに綺麗《きれい》に任せてください。おとよさんにあやまらせろというなら、どのようにもあやまらしょう」
「どうか旦那《だんな》、もう堪忍《かんにん》してやってください」
「てめいが何を知る、黙ってろ」
薊《あざみ》も長い間の押し問答の、石に釘《くぎ》打つような不快にさっきからよほど劫《ごう》が沸いてきてる。もどかしくて堪らず、酔った酒も醒《さ》めてしまってる。
「どうでも土屋さん、もうえい加減にうんといってください。一体筋道とはどういう事です」
「筋道は筋道さ、親の顔が立ちさえすればえい。親の理屈を丸つぶしにして、子の我儘《わがまま》をとおすことは……」
薊の顔は見る見る変ってきた。灰吹きを叩《たた》く音も際立《きわだ》って高い。しばらく身をそらして老人を見おろしていたが、
「ウム自分の顔の事ばかりいってる。おれの顔はどうする、この薊
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