の考えがとおせんから面目がない。あなたも知ってのとおり、あいつは親不孝な子ではなかったのだがの」
「少し待ってください。あなたは無造作に浮奔《いたずら》だの親不孝だと言うが、そこがおれにゃ、やっぱり解《わか》んねい。おとよさんがなで親不孝だ、おとよさんは今でも親孝行な人だ、私がそういうばかりではない、世間でもそういってる。私の思うにゃあなたがかえって子に不孝だ」
「どこまでも我儘《わがまま》をとおして親のいうことに逆らうやつが親不孝でないだろか」
「親のいうことすなわち自分のいうことを、間違いないものと目安をきめてかかるのがそもそも大間違いのもとだ。親のいうことにゃ、どこまでも逆らってならぬとは、孔子《こうし》さまでもいっていないようだ。いくら親だからとて、その子の体まで親の料簡《りょうけん》次第にしようというは無理じゃねいか、まして男女間の事は親の威光でも強《し》いられないものと、神代の昔から、百里隔てて立ち話のできる今日《こんにち》でも変らぬ自然の掟《おきて》だ」
「なによ、それが淫奔事《いたずらごと》でなけりゃ、それでもえいさ。淫奔をしておって我儘をとおすのだから不埒《ふらち》な
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