屋さん、今朝《けさ》佐介さんからあらまし聞いたんだが、一体おとよさんをどうする気かね」
「どうもしやしない、親不孝な子を持って世間へ顔出しもできなくなったから、少し小言《こごと》が長引いたまでだ。いや薊さん、どうもあなたに面目次第もない」
「土屋さんあなたは、よく理屈を言う人だから、薊も今夜は少し理屈を言おう。私は全体理屈は嫌いだが、相手が、理屈屋だから仕方がねい。おッ母さんどうぞお酌《しゃく》を……私は今夜は話がつかねば喧嘩《けんか》しても帰らねいつもりだからまあゆっくり話すべい」
片意地な土屋老人との話はせいてはだめだと薊は考えてるのだ。
「土屋さん、あなたが私に対して面目次第もないというのが、どうも私には解んねい。斎藤との縁談を断わったのが、なぜ面目ないのか、私は斎藤から頼まれて媒妁人《なこうど》となったのだから、この縁談は実はまとめたかった。それでも当の本人が厭《いや》だというなら、もうそれまでの話だ。断わるに不思議はない、そこに不面目もへちまもない」
「いや薊《あざみ》、ただ斎藤へ断わっただけなら、決して面目ないとは思わない。ないしょ事の淫奔《いたずら》がとおって、立派な親
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