来、土屋の家では、例の親父《おやじ》が怒《おこ》って怒って始末におえぬということを聞いて、どうにか話をしてやりたく思ってるものの、おとよの一身に関することは、世間晴れての話でないから、親類とてめったな話もできずにおったところ、省作の家の人たちの心持ちがすっかり知れてみると、いつまでそうしては置けまいと、お千代がやきもきして佐介を薊の方へ頼みにやった。薊は早速《さっそく》その晩やって来た。もとより親類ではあるし、親しい間柄だからまず酒という事になる。主人の親父とは頃合いの飲み相手だ、薊は二つめにさされた杯を抑《おさ》え、
「時に今日《きょう》上がったのは、少し願いがあって来たわけじゃから、あんまり酔わねいうちに話してしまうべい。おッ母《か》さん、おッ母さん、あなたにもここさ来て聞いててもらべい、お千代さん、ちょっとおッ母さんを呼んでください」
おとよの母はいろいろ御心配くだすってと辞儀《じぎ》をしてそこにすわる。
「御両人の子についての話だから、御両人の揃《そろ》った所でなけりゃ話はできない」
薊の話には工夫がある。男親一人にがんばらせないという底意を諷《ふう》してかかる。
「時に土
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