《いや》と思うのも心のとりよう一つじゃねいか。それでお前は今日《きょう》どういって出てきました」
「別にむずかしいこと言やしません。家へいってちょっと持ってくるものがあるからって、あやつにそう言って来たまでです」
「そうか、そんなら仔細《しさい》はないじゃないか。おらまたお前が追い出されて来ましたというから、物言いでもしてきた事と思ったのだ。そんなら仔細はない、今夜にも帰ってくろ。お前の心さえとりなおせば向うではきっと仔細はないのだよ。なあ省作、今お前に戻ってこられるとそっちこちに面倒が多い事は、お前も重々《じゅうじゅう》承知してるじゃねいか」
省作はまただまってる。母もしばらく口をあかない。省作はようやく口重く、
「おッ母さんがそれほど言うなら、とにかく明日《あす》は帰ってみようけれど、なんだかわたしの気が変になって、厭な心持ちでいたんだから、それで向うでも少し気まずくなったわけだとすると、わたしは心をとりなおしたにしろ、向うで心をなおしてくんねば、しようがないでしょう」
「そりゃおまえ、そんな事はないよ。もともと懇望されていったお前だもの、お前がその気になりさえすりゃ、わけなしだ
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