わ」
 話は随分長かったが、要するに覚束《おぼつか》ない結局に陥ったのである。これからどうしてもおとよの話に移る順序であれど、日影はいつしかえん側をかぎって、表の障子をがたぴちさせいっさんに奥へ二人《ふたり》の子供が飛びこんできた。
「おばあさんただいま」
「おばあさんただいま」
 顔も手も墨だらけな、八つと七つとの重蔵《しげぞう》松三郎が重なりあってお辞儀《じぎ》をする。二人は起《た》ちさまに同じように帽子をほうりつけて、
「おばあさん、一銭おくれ」
「おばあさん、おれにも」
 二人は肩をおばあさんにこすりつけてせがむのである。
「さあ、おじさんが今日はお菓子を買ってやるから、二人で買ってきてくれ、お前らに半分やる」
 二童《ふたり》は銭を握って表へ飛び出る。省作は茶でも入れべいと起《た》った。

      二

 翌朝、省作はともかくも深田に帰った。帰ったけれども駄目《だめ》であった。五日ばかりしてまた省作は戻ってきた。今度はこれきりというつもりで、朝早く人顔の見えないうちに、深田の家を出たのである。
 母は折角《せっかく》言うていったんは帰したものの、初めから危ぶんでいたのだか
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