とおとよの顔を見比べて、
「お千代さん、おとよさんは少し元のおとよさんと違ってきたね」
「どう違うの」
「元はもっと、きっぱりとしていて、今のように苦労性でなかったよ。近頃はばかに気が弱くなった、おとよさんは」
おとよは、長くはっきりした目に笑《え》みを湛《たた》えてわきを見ている。
「それも省さんがあんまりおとよさんに苦労さしたからさ」
「そんな事はねい、私はいつでもおとよさんの言いなりだもの」
「まあ憎らしい、あんなこといって」
「そんなら省さん、なで深田へ養子にいった」
お千代はこう言ってハヽヽヽヽと笑う。
「それもおとよさんが行けって言ったからさ」
「もうやめだやめだ、こんなこといってると、鴨《かも》に笑われる。おとよさん省さん、さあさあ蛇王様へ詣《まい》ってきましょう」
三人はばたばた外へ出る。池の北側の小路《こみち》を渚《なぎさ》について七、八町|廻《まわ》れば養安寺村である。追いつ追われつ、草花を採ったり小石を拾って投げたり、蛇がいたと言っては三人がしがみ合ったりして、池の岸を廻ってゆく。
「省さん、蛇王様はなで皹《あかぎれ》の神様でしょうか」
「なでだか神様のこた
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