へ手を付けんのだから、おれの勝手だ。お前もそんつもりでな、東京で何か仕事を覚えろ……おとよさんのおとッつさんが、むずかしい事をいうのも、つまりわが子|可愛《かわい》さからの事に違いあんめいから、そりゃそのうちどうにかなるよ、心配せんで着々実行にかかるさ。
兄はこう言うんですから、私の方は心配ないです。佐介さんにお千代さんから、よくそう申してください、おとッつさんの方も何分頼みます」
お千代は平生《へいぜい》妹ながら何事も自分より上手《うわて》と敬しておったおとよに対し、今日ばかりは真の姉らしくあったのが、無上《むしょう》に嬉《うれ》しい。
「それではもうおとよさん安心だわ。これからはおとッつさん一人《ひとり》だけですから、うちでどうにか話するでしょう。今日はほんとに愉快であったわねい」
「ほんとにお千代さん、おとッつさんをいつまでああして怒《おこ》らしておくのは、わたしは何ほどつらいかしれないわ。おとッつさんの言う事にちっとも御無理はないんだから、どうにかしておとッつさんの機嫌《きげん》を直したい、わたしは……」
「そりゃ私だっておとよさんの苦心は充分察してるのさ」
省作はお千代
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