あるのである。
その日は朝も早めに起き、二人して朝の事一通りを片づけ、互いに髪を結い合う。おとよといっしょというのでお千代も娘作りになる。同じ銀杏返《いちょうがえ》し同じ袷《あわせ》小袖《こそで》に帯もやや似寄った友禅|縮緬《ちりめん》、黒の絹張りの傘《かさ》もそろいの色であった。緋《ひ》の蹴出《けだ》しに裾《すそ》端折《はしお》って二人が庭に降りた時には、きらつく天気に映って俄《にわ》かにそこら明るくなった。
久しぶりでおとよも曇りのない笑いを見せながら、なお何となし控え目に内輪なるは、いささか気が咎《とが》むるゆえであろう。
籠《かご》を出た鳥の二人は道々何を見ても面白そうだ。道ばたの家に天竺牡丹《てんじくぼたん》がある、立ち留って見る。霧島が咲いてる、立ち留って見る。西洋草花がある、また立ち留って見る。お千代は苦も荷もなく暢気《のんき》だ。
「おとよさん、これ見たえま、おとよさんてば、このきれいな花見たえま」
お千代は花さえ見れば、そこに立ち留って面白がる。そうしてはおとよさん見たえまを繰り返す。元が暢気《のんき》な生れで、まだ苦労ということを味わわないお千代は、おとよを
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