、そうしようともいわない。飯が済めばさっさと田圃《たんぼ》へ出てしまう。
九
世は青葉になった。豌豆《えんどう》も蚕豆《そらまめ》も元なりは莢《さや》がふとりつつ花が高くなった。麦畑はようやく黄ばみかけてきた。鰌《どじょう》とりのかんてらが、裏の田圃に毎夜八つ九つ出歩くこの頃、蚕は二眠が起きる、農事は日を追うて忙しくなる。
お千代が心ある計らいによって、おとよは一日つぶさに省作に逢《お》うて、将来の方向につき相談を遂《と》ぐる事になった。それはもちろんお千代の夫も承知の上の事である。
爾来《じらい》ことにおとよに同情を寄せたお千代は、実は相談などいうことは第二で、あまり農事の忙しくならないうちに、玉の緒かけての恋中《こいなか》に、長閑《のどか》な一夜の睦言《むつごと》を遂げさせたい親切にほかならぬ。
お千代が一緒というので無造作に両親の許しが出る。
かねて信心《しんじん》する養安寺村の蛇王権現《だおうごんげん》にお詣《まい》りをして、帰りに北の幸谷《こうや》なるお千代の里へ廻《まわ》り、晩《おそ》くなれば里に一宿《いっしゅく》してくるというに、お千代の計らいが
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