らいなら、おとよの料簡《りょうけん》に任してもえいでしょう」
こういうと父は、
「うむ、そんな事いってさんざん淫奔《いたずら》をさせろ」
すぐそういうのだからどうしようもない。ことにお千代は極端に同情し母にも口説《くど》き自分の夫にも口説きしてひそかに慰藉《いしゃ》の法を講じた。自ら進んで省作との間に文通も取り次ぎ、時には二人を逢《あ》わせる工夫もしてやった。
おとよはどんな悲しい事があっても、つらい事があっても、省作の便《たよ》りを見、まれにも省作に逢うこともあれば、悲しいもつらいも、心の底から消え去るのだから、よそ目に見るほど泣いてばかりはいない。例の仕事|上手《じょうず》で何をしても人の二人前働いている。
父は依然として朝飯夕飯のたびに、あんなやつを家へ置いては、世間へ外聞が悪い、早くどこかへ奉公にでもやってしまえという。母は気の弱い人だから、心におとよをかわいそうと思いながら、夫のいうことばに表立って逆らうことはできない。
「おとよを奉公にやれといったって、おとよの替わりなら並みの女二人頼まねじゃ間に合わない」
いさくさなしの兄はただそういったなり、そりゃいけないとも
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