一つを取り直しさえすれば、おまえの運はもちろん、家の面目も潰《つぶ》さずに済むというものだ。省作とてお前がなければまたえい所へも養子に行けよう。万方《ばんぼう》都合よくなるではないか。ここをな、おとよとくと聞き別けてくれ、理の解《わか》らぬお前でないのだから」
父のことばがやさしくなって、おとよのつらさはいよいよせまる。おとよも言いたいことが胸先につかえている。自分と省作との関係を一口に淫奔《いたずら》といわれるは実に口惜《くや》しい。さりとて両親の前に恋を語るような蓮葉《はすっぱ》はおとよには死ぬともできない。
「おとッつさんのおっしゃるのは一々ごもっともで、重々わたしが悪うございますが、おとッつさんどうぞお情けに親不孝な子を一人《ひとり》捨ててください」
おとよはもう意地も我慢《がまん》も尽きてしまい、声を立てて泣き倒れた。気の弱い母は、
「そんならお前のすきにするがえいや」
「ウム立派に剛情を張りとおせ。そりゃつらいところもあろう、けれども両親が理を分けての親切、少しは考えようもありそうなもんだ、理も非もなくどこまでも、我儘《わがまま》をとおそうという料簡《りょうけん》か、よ
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