されば家じゅう悦《よろこ》んで、滞りなく纏《まと》まる事と思いのほか、本人の不承知、佐介も乗り気にならぬという次第で父は劫《ごう》が煮えて仕方がない、知らず知らず片意地になりかけている。呆《あき》れっちまった、どうしてあんなにばかになったか、もう駄目《だめ》だ、断わってしまう、こう口には言っても、自分の思い立った事を、どんな場合にもすぐ諦《あきら》めてよすような人ではない。いろいろ理屈をひねくって根気よく初志を捨てないのがこの人の癖である、おとよはこれからつらくなる。
お千代はそれほど力になる話相手ではないが悪気《わるぎ》のない親切な女であるから、嫁《よめ》小姑《こじゅうと》の仲でも二人は仲よくしている。それでお千代は親切に真におとよに同情して、こうなって隠したではよくないから、包まず胸を明かせとおとよに言う。おとよもそうは思っていたのであるから、省作との関係も一切明かしたうえ、
「わたしは不仕合せに心に染まない夫を持って、言うに言われないよくよく厭《いや》な思いをしましたもの、懲りたのなんのって言うも愚かなことで……なんのために夫を持ちます、わたしは省作という人がないにしても、心の
前へ
次へ
全87ページ中48ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
伊藤 左千夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング