判《わか》らない人などの所へ二度とゆく気はありません。この上わたしが料簡《りょうけん》を換えて外へ縁づくなら、わたしのした事はみんな淫奔《いたずら》になります。わたしのためわたしのためと心配してくださる両親の意に背いては、誠《まこと》に済まない事と思いますけれど、こればかりは神様の計らいに任せて戴きたい、姉《ねえ》さんどうぞ堪忍《かんにん》してください、わたしの我儘《わがまま》には相違ないでしょうが、わたしはとうから覚悟をきめています。今さらどのような事があろうと脇目《わきめ》を振る気はないんですから」
お千代はわけもなくおとよのために泣いて、真からおとよに同情してしまった。その夜のうちにお千代は母に話し母は夫に話す。燃えるようなおとよのことばも、お千代の口から母に話す時は、大半熱はさめてる、さらに母の口から父に話す時は、全く冷静な説明になってる。
「なんだって……ここで嫁に出れば淫奔《いたずら》になるって……。ばかばかしい、てめいのしてる事が大の淫奔《いたずら》じゃねいか、親不孝者めが、そのままにしちゃおけねい」
とにかく明日の事という事でこの夜はおしまいになった。
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