だれの目にも仕合せだと思うに、それをいわれもなく、両親の意に背くような、そんな我儘《わがまま》はさせられないよ」
「させられないたって、おッ母さんしようがないよ」
「佐介、ばかいいをするな、おまえなどまでもそんな事いうようだから、こんな事にもなるのだ」
「わが身の一大事だから少し考えさせてくださいと言うのを、なんでもかでもすぐ承知しろと言うのはちっとひどいでしょう」
「それでは佐介、きさまもとよを斎藤へやるのは不同意か」
「不同意ではありませんけれど、そんなに厭だと言うならと思うんです。おとよの肩を持って言うんじゃありません。おとッつさんのは言い出すとすぐ片意地になるから困る」
「なに……なにが片意地なもんか。とよのやつの厭だと言うにゃいわくがあるからだ、厭だとは言わせられないんだ」
「佐介、もうおよしよ、これでは相談にはなりゃしない。ねいおまえさん、お千代がよくあれの胸を聞くはずですから、この話は明日にしてください。湯がさめてしまった、佐介、茶にしろよ」
 父はますますむずかしい顔をしている。なるほど平生《へいぜい》おれに片意地なところはある、あるけれども今度の事は自分に無理はない、
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