拶《あいさつ》ぶりが、不承知らしいので内心もう非常に激昂《げっこう》した。ことに省作の事があるから一層|怒《おこ》ったらしく顔色を変えて、おとよをねめつけていたが、しばらくしてから、
「ウム、それではきさま三日たてば承知するのか」
 おとよは黙っている。
「とよ黙っててはわかんね。三日たてば承知するかと言うんだ。なアおとよ、わが娘ながらお前はよく物の解《わか》る女だ。こうして、おれたちが心配するのも、皆お前のためを思うての事だど」
「おとッつさんの思《おぼ》し召しはありがたく思いますが、一度わたしは懲りていますから、今度こそわが身の一大事と思います。どうぞ三日の間考えさしてください。承知するともしないともこの三日の間にわたしの料簡《りょうけん》を定《き》めますから」
 父は今にも怒号せんばかりの顔色であるけれど、問題が問題だけにさすがに怒りを忍んでいる。
「こちから明日じゅうに確答すると言った口上に対しまた二日間挨拶を待ってくれということが言えるか。明日じゅうに判《わか》らぬことが、二日延べたとて判る道理があんめい。そんな人をばかにしたような言《こと》を人様にいえるか、いやとも応とも明
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