日じゅうには確答してしまわねばならん。
 おとよ、なんとかもう少し考えようはないか。両親兄弟が同意でなんでお前に不為《ふため》を勧めるか。先度は親の不注意もあったと思えばこそ、ぜひ斎藤へはやりたいのだ。どこから見たって不足を言う点がないではないか、生若《なまわか》いものであると料簡の見留《みと》めもつきにくいが斎藤ならばもう安心なものだ。どうしても承知ができないか」
 父は沸《に》える腹をこらえ手を握って諭《さと》すのである。おとよは瞬《まばた》きもせず膝《ひざ》の手を見つめたまま黙っている。父はもう堪《たま》りかねた。
「いよいよ不承知なのだな。きさまの料簡は知れてるわ、すぐにきっぱりと言えないから、三日の間などとぬかすんだ。目の前で両親をたばかってやがる。それでなんだな、きさまは今でもあの省作の野郎と関係していやがるんだな。ウヌ生《いけ》ふざけて……親不孝ものめが、この上にも親の面に泥を塗るつもりか、ウヌよくも……」
 おとよは泣き伏す。父はこらえかねた憤怒の眼を光らしいきなり立ち上がった。母もあわてて立ってそれにすがりつく。
「お千代やお千代や……早くきてくれ」
 お千代も次の間
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