ての上にしましょう。あなたを悦《よろこ》ばせようと申した事は、母や姉は随分不承知なようですが、肝心な兄は、「お前はおとよさんと一緒になると決心しろ」と言うてくれたのです。兄は元からおとよさんがたいへん気に入りなのです。もう私の体はたいした故障もなくおとよさんのものです。ですから私の方は、今あせって心配しなくともよいです。それに二人について今世間が少しやかましいようですから、ここしばらく落ちついて時を待ちましょう。それにしてもおとよさんにはまたおとよさんの考えがありましょう。おうちの都合はどんなふうですかそれも聞きたいし、わたしはおとよさんの手紙を早く見たい」
省作の手紙はどこまでも省作らしく暢気《のんき》なところがある。そのまた翌日おとよから省作に手紙をだした。
「わたしから先にと思いましたに、まずあなた様よりのお手紙で、わたしは酔わされてしまいました。出しては読み出しては読み、差し上げる手紙を書く料簡《りょうけん》もなく、昨夜|一《ひと》ばん埒《らち》もなく過ごしました。先夜はほんとに失礼いたしました。ただ悲しくて泣いた事を夢のように覚えてるばかり、ほかの事は何も覚えていません。あ
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