るんでは、いいたいことがあってもいえない、いっそぼくの頭がガムシャラで乱暴で阪井のように善と悪との差別がないならぼくはもう少し幸福かもしらないけれども、学校で先生に教わったことをわすれないし、道にはずれたことをしたくないために、人に踏《ふ》まれてもけられてもがまんする気になります、そんなことでは損です、世の中に生きていられません、そう思いながらやはり悪いことはしたくないしね」
チビ公は涙ぐんで歎息した、光一はなにもいうことができなくなった。かれはいままで正義はかならず邪悪に勝つものと信じていた。それが今日《きょう》もっとも尊敬する久保井校長が阪井のためにおいはらわれたのを見て、正義に対する疑惑が青天に群がる白雲のごとくわきだしたところであった。かれはいまチビ公の嗟歎《さたん》を聞き、覚平の薄幸《はっこう》を思うとこの世ははたしてそんなにけがらわしきものであるかと考えずにいられなかった。
ふたりはだまって歩きつづけた。と米屋の横合いから突然声をかけたものがある。
「柳君!」
それは手塚であった。このごろ手塚は裏切り者として何人《なんぴと》にもきらわれた、でかれは光一にもたれるより策
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