ああ玉杯に花うけて
佐藤紅緑
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)豆腐屋《とうふや》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)生涯|豆腐《とうふ》を
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)こつ[#「こつ」に傍点]として
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一
豆腐屋《とうふや》のチビ公はいまたんぼのあぜを伝ってつぎの町へ急ぎつつある。さわやかな春の朝日が森をはなれて黄金《こがね》の光の雨を緑の麦畑に、黄色な菜畑に、げんげさくくれないの田に降らす、あぜの草は夜露からめざめて軽やかに頭を上げる、すみれは薄紫《うすむらさき》の扉《と》を開き、たんぽぽはオレンジ色の冠《かんむり》をささげる。堰《せき》の水はちょろちょろ音立てて田へ落ちると、かえるはこれからなきだす準備にとりかかっている。
チビ公は肩のてんびん棒にぶらさげた両方のおけをくるりとまわした。そうしてしばらく景色に見とれた。堤の上にかっと朝日をうけてうきだしている村の屋根屋根、火の見やぐら、役場の窓、白い土蔵、それらはいまねむりから活動に向かって歓喜の声をあげているかのよう、
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